沖縄タイムス、文化面コラム「唐獅子」。
本日2023年12月27日(水)の紙面掲載分にて、連載が最終回となります。半年間、絶対に役立ってなるものかと、死に物狂いで檄文を著してまいりました。とても楽しかったです。
前回分(12/13)、12回目のテキストをこちらに掲載します。
最近は飛行機に乗る機会が増えて、その分体調不良に苛まれる頻度も増えてきております。
その苦悩を綴ったテキストです。
どうか眠らせてほしい
乗り物酔いがひどい。どんどんひどくなっている。
というよりも、飛行機に乗る機会が増えたことで、元来の体質が明らかになったということなのかもしれないが。
予防のために、搭乗30分前には酔い止めの薬を飲むことを忘れないよう努めているが、でも結局空の上では頭痛と吐き気に覆われてしまう。
それを誤魔化すために、ひたすら目を閉じる。その結果、運が良ければ眠りに落ちることができ、嫌悪感との睨み合いも回避できる。
だが、そこで別の問題が発生する。
機内で寝てしまうということは、ドリンク提供の機内サービスを逃してしまうということだ。
勘違いしてほしくないのだが、口が乾いているとか、喉に何か詰まってしまったとか、そういう喫緊の問題を解決するためにドリンクを欲しているわけではない。それなら、機内に持ち込んだペットボトルのお茶を飲めば事足りる。
ご存知のように、私は搭乗前に必ずミニサイズのお茶を購入するわけで、緊急事態への備えは十分だ。
そうではない。ドリンクが飲みたいわけではない。
だが、ここが重要で、飲みたくないわけでもない。もらえるのなら喜んでもらう。
私は寝落ちしたことで、ドリンクを受け取る権利を保留された状態にある。CAさんを呼び、ドリンクが欲しいと声をかければその状態は解除される。
そうすることは搭乗者に付与された正当な権利であり、一時的な入眠によってそれが剥奪されることはあってはならない。
しかし、そこまでしてドリンクをお願いするべきか否か。その葛藤の渦の中に私は投げ込まれた。このままでは所有する権利を行使せぬまま飛行機を降りることになってしまう。
別に飲まなくてもいいが、なんかもったいない。
振動する座席に張り付いた私の体から、アクティヴィズムが飛び出そうとする。
すみません、ドリンクください!
すんでのところでその発声をとどめ、ペットボトルのお茶で喉奥に押し戻す。
私はまだ覚悟を決められない。頼むのか、頼まないのか。
その間に飛行機は下降をはじめた。
時が過ぎれば過ぎるほど、声をかけることへのうしろめたさが膨らんでいく。
こんなことなら着陸まで寝ていたらよかった。どうして覚醒してしまったのか。
ポン、と陽気な音が鳴り、続いてシートベルトの着用を促す機内放送。
手に持った透明な容器の中でゆらゆら揺れる、茶色い液体を見つめた。
ああ、これは私だ。
そんなふうには、別に思わないけど。
[沖縄タイムス(2023.12.13)]